もちろん設計出来るわけもなく、雑用する事になったらしい。
アントンは、設計さんにコピーを頼まれた。
が、何故かアントンは不機嫌。
どうもコピーをとるという業務が気に食わなかったらしい。
設計さんから受け取った書類を、私の所へ持ってきた。
「これ、コピーしてきて」と。
私は営業部。アントンは設計部。
ちょうど私は、急ぎの見積書を作っていた最中だったし、
一瞬「ん?」と思ったけど、コピーの使い方が解らないんだろうと思い、
私はアントンをコピーの所まで連れて行き「このままセットして、ボタン押すだけです」と説明しながらやっていた。
が、アントンは自分の席に戻っていた。
とりあえず、コピーした書類をアントンの所で持っていくと
「ちゃんと出来た?じゃ、次これFAXしてきて」と次の書類を渡された。
アントンのPCを見るとエクセルの表があり、下に小さい窓でヤフー知恵袋が開かれていた。
勤務一日目からこの態度。すごい人だと思った。
さすがに設計さんが、「アントンさん、あんたに頼んだんやから。」と助け舟を
出してくれた。
するとアントンは舌打ちをし「バン!」と机を叩いて立ち上がりFAXを送りにいった。
今までそんな人が居なかったので、皆凍りついた。
ベテランさんだけがニヤニヤしてた。
アントンはFAXを終えて自分の席に戻ってくるなり、書類を机に投げ喫煙室へ消えた。
とりあえず、その日はユリさんのお祝いとアントンの歓迎会を兼ねた飲み会があった。
皆の時間や予算的に、歓送迎会的な感じだった。主役は2人。
場所は、皆がよく行く居酒屋さん。
小さいながらも大将も面白いし、料理も安くて美味しい良い店だった。
が、店に入るなりアントンが
「は?何よこの店。私こんな店始めてやわ。狭いなぁ。」
と言い出した。
当然、大将も聞いていたので社長が
「あ、アントンさんは社長令嬢やからなぁ。ここ、メッチャ旨いねんで」
と一応のフォロー。
皆も口々にフォローにならないフォローでその場を誤魔化した。
そんなこんなで席につき、とりあえずビールで乾杯しようという事になった。
皆のグラスにビールが注ぎ終わって、社長が乾杯の音頭をとろうとしたが、
しかし、やはり相手はアントン。
そう簡単には乾杯させてくれない。
「私、ワインしか飲めません。」
しょうがないので、ワインを注文。
きたワインを見るなり「これはどこのワイン?」とか言い出した。
アントンと一緒に上座に座ってるユリさんは、ずっとテーブル見てた。
私は、アントンと離れて座って良かったと思った。
そして皆のビールの泡もなくなった頃、やっと乾杯が出来た。
皆がユリさんの結婚相手について色々質問してた。
笑顔で答えていくユリさんが凄く綺麗だった。
ユリさんは美人だし優しいし、旦那さんは幸せだろうなって思った。
ちなみにユリさんの結婚相手は歯医者さん。
アントンが明らかに不機嫌になってきた。
営業さんがもう1人の主役アントンを気遣って、話かけた。
普段でもメチャクチャなアントンがお酒が入ってまともになるわけもない。
それからは、アントン1人が主役。
離れて座って安心していた私だが、アントンの言動には興味があった。
アントンは声がデカイのでよく聞こえた。
とりあえず、私とベテランさんと友近似の設計さんはアントンチェックを開始した。
アントンは、誰に言うでもなく自分についてたんたんと語っていた。
どこの会社にいっても部下から慕われる。
いずれは親の会社の経営に携わらなければならないので苦痛。
どこで働いても、自分の能力を活かしきれない。
とりあえず私はお金持ち。お金に困ったことがない。
有名俳優や歌手にプロポーズされた事がある。
今は、3人からプロポーズされている。などなど。
友近さんはひいてた。でも私とベテランさんは興味津々。
たった10分くらいの話で私達3人を満足させてくれるアントンってほんとうに凄い人だと思った。