私の友人の話。友人と私は特に仲が良いって訳でもなく、幼稚園から高校、そして就職した会社が 一緒だった。
友人は私と違って快活で、正義感が強くていつも彼の周りには人が集まってきます。
そんな彼は、就職した会社でも、同期の私を含めて他の同僚とは一線を画す程の存在でした。
先輩や上司からはすぐに戦力としていろんな仕事を任されたりしました。
彼が弱点を持っているとしたら、強いていうなら彼がベジタリアンであること。
今のように、多様なライフスタイルを尊重するという時代ではありませんでした。
会社の飲み会や取引先との食事では、それが少しハンデになるかと思いましたが、彼は持ち前の人当た
りの良さで、その場その場を切り抜けているようでした。
しかし、社内の飲み会のとき、一人の先輩が悪ふざけをしました。
友人が席を離れた隙を狙って彼が食べている生春巻きにゴーヤチャンプルの細切りの肉を仕込みました。
私や他の同僚は止めるよう言いましたが、先輩は「俺が肉の美味しさを教えてやる」、と言ってきかなかった。
私たちも、まあ口に入れて気づいたら吐き出すかな、くらいに思ってました。
トイレから帰ってきた友人が席についた。
もともとテーブル上の皿のうち、食べられる物が限られているので、彼はすぐに例の生春巻きを口に入れました。
しばらく噛んだ後違和感を覚えたのか、食い口を注意深くのぞき、細い肉が垂れているのをまじまじと目を見開いて確認しました。
「な、どうだうまいだろう?あんまり好き嫌いしていると幸せを知らずに生きていくんだぞ。俺が、食わしてやったんだから、もうかっこつけてベジタリアンとか、やめろや」と、先輩が言った。
友人は、目を見開いたまま先輩に顔を向けた。そして、静かに口の中のものを皿に出し、
「おまえが?」と声にならないような声で先輩に訊いた・・・