うちの会社には、滅多に鳴らない電話機がある。
今よりも部署が多かった頃の名残で、
回線は生きているものの発信する事もなければ、
着信もごくたまに間違い電話がある程度だった。
あるとき、俺は仕事が立て込んで、深夜まで一人で仕事をしていた。
週末で、何も無ければ飲みに出かけようかと思っていた矢先に
急な仕事が入ってしまい、やむなく遅くまで残業する羽目になったのだ。
その仕事も終わり、そろそろ帰ろうかと支度を始めようとした時、
不意にその電話が鳴った。
またか、と思った。深夜まで残業する事はたまにあり、夜の12時に
差し掛かるあたりになると、よくその電話が鳴る事があったからだ。
こんな時間に仕事の電話はかかってこないし、間違い電話だろう。
いつもその電話が鳴ったときには、そう決め込んで無視をしていた。
しばらく鳴るが、いつもは呼び出し音が10回も鳴れば切れていた。
ところがその日は、呼び出し音がずっと鳴り続けて止まらない。
仕事を終えて、緩んだ気持ちの俺は呼び出し音に段々いらだってきた。
鳴り続けている電話機の受話器を取り上げ、そのまま切ってしまおう。
間違いFAXの場合もあるので、一応受話器を耳にあててみた。すると、
「もしもーし、ああ、やっとつながった!」
と、快活な声が聞こえてきた。
あまりに明るい調子の声に、俺はそのまま切るのが
少し申し訳ない気持ちになった。
間違い電話であることを相手に伝えてから切ろう。
そう思い返事をした。
「すみません、こちらは株式会社○○ですが・・・
電話をお間違いではないでしょうか?」
そう言うと、相手は予想外の事を言い出した・・・